旧今井家
今井家は江戸時代の庄屋兼和紙問屋で、上有知で最もうだつの上がる商屋であった。
家屋は江戸中期に建てられ、美濃市で最も古いうだつが上がる町屋となっている。
そんな上有知で一番の金持ちお宅訪問と行ってみよう。
帳場から奥座敷
玄関をくぐると、帳場兼接客の間。
番頭が座っている帳場格子(今のレジカウンター)の前には来客用の火鉢と座布団が置いてある。
ここで商談していた風景が目に浮かんできそう。
帳場から外を見てみる。
外からの光を入れつつ、視線を遮断する格子窓は江戸時代の知恵。
隣の間の天井にサンタクロースが落ちてきそうな穴を発見。
天井から空に向かって伸びているこれは、明かり取りといって天窓の様なもの。
正午になると真下に太陽光が入る様になっている。
丁度、夏の正午に訪れたのでダイレクトに太陽光が部屋に入っていた。
季節や時間帯によって光の加減が変化する様で、他の季節や時間ならどうなるのだろうか。
自然を利用し、その変化を取り入れる昔の人の情緒性を垣間見れた。
帳場から奥へ続く長い土間。
外から見た店構えも立派だが、中は奥行きが長い。いわゆるウナギの寝床タイプの商屋。
帳場の奥は今井家のプライベート空間になっている。
この何の変哲もない障子は、なんとユネスコ世界遺産に登録された本美濃和紙で張ってあるそう。
美濃和紙のブランド力は世界も認めるほど!
しかし紙の審美眼を持ち合わせていない筆者には、100円ショップの和紙との違いさえ分からない。
うだつの上がらない筆者には猫に小判である。
襖を開け放つと中庭まで見渡せる広い座敷。
左右で光っているものは何かと近づいてみると…
説明によると、これらは和紙で作ったアート作品とのこと。
これが和紙ってマジか?!鱗の部分とかどうなってんの?
これなら和紙の良し悪しが分からない筆者でも楽しめる。
このすぐ近くにこの様な和紙のアート作品を展示しているところがあるらしいので、後で行ってみた。
中庭
奥座敷からの中庭。
中庭も縦長で京町屋の庭園みたいな感じ。石畳は森に分け入る様に続いていて、先が気になる。
ここで初めて知ったが、この庭園をある有名アーティストが見に訪れていたとのこと。
スピッツの面々がここを訪れていたー!
筆者の世代がばれてしまうが、スピッツは筆者の青春そのものといっていい程の大ファンなのだ。
スピッツってこの庭園や古風なうだつの町屋が似合う気がする~。
頭の中で色んなスピッツの曲が鳴り始めた。
猫になりたい 君の腕の中 寂しい夜が終わるまでここにいたいよ♪
スピッツ「猫になりたい」
庭園には水琴窟があった。
水琴窟とは水を手前の石のところに注ぐと、その下が空洞になっているため水が落ちる音が反響する仕組みである。
なめらかに澄んだ沢の水を ためらうことなく流し込み
懐かしく香る午後の風を ぬれた首すじに受けて笑う♪
スピッツ「田舎の生活」
石畳に誘われて、森の奥へ入ってみると神社の様なものが見えてきた。
晴れた空だ日曜日 戦車は唾液で溶けて
骨の足で駆けおりて 幻の森へ行く♪
スピッツ「日曜日」
何故か庭園の奥には神社があった。
境内には面白い案内があって、それによると神社の灯篭に面白いマークがあるとのこと。
なんと灯篭にハートマークがあった! きっとここで愛を誓い合った二人がいたに違いない。
愛してるの響きだけで 強くなれる気がしたよ
いつかまた この場所で 君とめぐり会いたい♪
スピッツ「チェリー」
この庭園は凄すぎる。何から何までスピッツを彷彿させる雰囲気に溢れていて、最後にハートって出来すぎやろ。
とはいえそこまでご都合主義ではなく、実はこれは猪目(いのめ)といって猪の目をモチーフにした文様で、魔除けや福を呼ぶ護符の意味があるらしい。
神社や寺などでよく見られるとのこと。散々、神社や寺に行っているのに知らんかった💦
3つの蔵
中庭から座敷に戻り、土間を奥に進むと大きな蔵があった。
中はうだつに関する展示、説明がされているうだつ蔵になっている。
更にその奥の蔵は美濃市の昔の風景写真、歴史資料が展示されている美濃資料館になっている。
ちなみに前述の古地図はこの中に展示されていた。
写真撮影可のところが多いおかげで、撮影した古地図を見ながら町の探索をすることが出来る様になった。
あと携帯のカメラ機能の性能がアップしたので、非常に見やすくなった。
美濃資料館の向かいにも蔵があり、全部で3つの蔵が資料館として見学できるようになっていた。
この蔵はにわか蔵とあり、にわかとは何ぞや?と入ってみた。
「にわか」とは江戸後期に大阪で生まれた寸劇風の漫才のことである。3、4名が漫才のように対話劇を進めて最後に落ちをつける。
日本各地に広がり、それぞれの地域の特徴を持った「にわか」が今も演じられている。
美濃市では「美濃流しにわか」が春の美濃まつりの時に競演されるとのこと。
写真は仁輪加車といって、車を押しながら太鼓などの演奏をして町中を廻る。流しの歌手みたいにいくつかの場所で「にわか」を演じていくのが「美濃流しにわか」の特徴となっている。
次は先ほど座敷にあった和紙のアート作品が展示されている、美濃和紙あかりアート館に行ってみた。
美濃和紙あかりアート館
目の字通りから外へ伸びる坂道を下る途中に、うだつの町の中で異彩を放つ和洋折衷的な建物が高低差を物ともせず建っている。
1941年(昭和16年)頃に美濃町産業会館として建てられ、現在は美濃和紙あかりアート館となっている。
一見、レンガやコンクリート造りの様に見えるが、調べたところ木造総2階建てで美濃市で最大の木造建築物とのこと。
そんな見た目も瀟洒な雰囲気を醸し出している建物の中は、幻想的な世界が広がっていた。
館内は薄暗くしてあり、和紙を通したほのかな光で作品を際立たす演出がされている。
反射する壁も床も木造の為か、光が優しい雰囲気。陰翳礼讃って感じ。
ここで全部、紹介してしまうと、この美しい作品群に対してあまりに無粋過ぎるので、最低限に留めておこう。
ここのフロアの演出は驚いた。
実際のフロアと奥の写真がシームレスに繋がっている様に見えて、奥の写真がうだつの町並みと気付くのに一瞬時間がかった。
これは美濃和紙あかりアート展といって、毎年10月の夜に美濃和紙のアート作品がうだつの町並みに並べられ、町そのものが作品展となるイベント。
これはマジで美しすぎる。うだつと和紙、美濃市が誇る2つの伝統がこんな形で融合し、町そのものが一つの芸術作品の様。
写真でもその美しさは十分に伝わってくるが、実際に見たらどんな風に感じられるのだろうか。
次は再び真夏の太陽が照りつける外へ出て、もう一度うだつの町並みを巡ってみる。
その中で印象に残ったお店を紹介しよう。
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