岡山県の東側に流れる吉井川、そのほとりにはのどかな田園地帯が広がっています。どこにでもある農村の風景に見えますが、かつて日本中の武士が憧れた名工の産地がありました。
備前長船。ゲームや小説などで一度はその名を耳にしたことがある日本刀は、その名の通り岡山県の長船で生み出された刀。
鎌倉時代から続く「備前長船」の刀工は数々の名刀を生み出し、その生産量は日本一といわれています。
なぜ長船は、多くの名刀、名刀匠を生み出したのでしょうか?
その答えを求めて、長船を巡ってみました。
備前長船巡り 3つのポイント
- 古来から刀鍛冶から信仰をあつめている、靱負神社
- 備前長船刀鍛冶の伝統を受け継ぐ、備前長船日本刀傳習所
- 歴史ある備前長船の刀と職人の作業風景が見学できる、備前長船刀剣博物館
吉井川と西国街道

この日の午前中は、黒田官兵衛や宇喜多直家とゆかりがあり西国一の商業都市と言われた備前福岡を巡ってきました。
備前長船は備前福岡から吉井川沿いに少し北へ行ったところ。車だと10分もかからない距離です。
筆者は自転車で長船の町へ向かいました。

福岡と長船は吉井川で繋がっているだけでなく、古代からの山陽の主要幹線である西国街道が走っています。
川と街道がある交通の要衝で、日本刀作りに必要な原材料の調達、完成した刀の出荷等、輸送に非常に便利な土地柄。
現在は橋がかかっていますが、明治以前は橋が無く福岡の渡しという川港がありました。吃水の浅い川船「高瀬舟」が川を行き交っていました。
備前長船刀剣発祥之地

備前福岡から吉井川の沿いに西国街道(今の国道2号線)を走っていると、景色は徐々に工場地帯へと変化していきました。
しばらく進むと無機質な工場地帯の中に、「備前長船刀剣発祥之地」と記された石碑がたっていました。
吉井川と西国街道に接したこの辺りに、名刀を産出した備前長船の鍛冶屋が立ち並んでいたと言われています。
その数は「鍛冶屋千軒打つ槌の音に西の大名が駕籠をとめる」とうたわれてほど。
靱負神社(天王社 刀剣の森)

発祥の地の石碑から街道を少し行くと、長船の氏神を祀る靱負神社がありました。
創建ははっきり分かっていませんが、平安時代頃からあった様で、足利尊氏は足利直冬討伐の際に参拝しています。
尊氏は新田義貞に敗れて九州に落ち延びる際も神社に参拝し、再起を願いました。その後、室町幕府を開くことが出来、成就の成功のお礼として、九州から持ち帰った松を寄進しました。今もその子孫が生き続けており、日向松と呼ばれています。
この神社には、これぞ岡山県っていう奉納品が納められています。

珍しい赤褐色の狛犬。明らかに石造りはありません。この色と岡山県でピンときましたが、これは備前焼の陶器製狛犬とのこと。
石造りのものより、顔の彫りとか毛並みの感じとかディテールが細かい。
これも岡山県って感じがしますが、もっとすごいものが社殿に奉納されています。

本殿は立派な白漆喰の塀で囲われています。神社の塀って木造や土壁が多いので、白漆喰だとお城の門みたいに感じますね。
門の横では、備前福岡でも見かけた刀鍛冶のマスコットキャラクターが.
可愛い見た目に反して真剣な面持ちで刀を打ってるギャップが良いです。

靱負神社は眼病平癒のご利益があると言われ、参拝者は「め」と書いた紙を拝殿に張り付ける風習があります。よく見ると、拝殿の左側に大量の「め」と書かれた紙が貼ってありました。この時は気付かなかった。
眼病平癒の神社となったきっかけは、先ほど登場した足利尊氏さんです。尊氏が足利直冬討伐の途上、備前福岡に滞在した時、目を患いました。その際、靱負神社で祈ると眼病が治ったため、眼病に霊験がある神社として信仰が広まったと言われています。
目が治ったり室町幕府を樹立したり、尊氏にとってマジのパワースポットになってる。
筆者も室町幕府の再興と視力回復を祈っておきました。とりあえず赤松は絶対に許さない!
拝殿の中にあがれるので、中にある奉納品を拝みに行きます。

手前には2人の刀剣男子、奥には2本の刀が奉納されていました。
刀剣男子とは、オンラインゲーム「刀剣乱舞」に登場する日本刀を擬人化したキャラクター。
やったことがない筆者が語るのもおこがましいのですが、この刀剣乱舞が日本刀人気に一役も二役も買っています。
2015年のリリースから女性に圧倒的な人気を博していて、このゲームの影響で日本刀に興味を持つ女性が爆増したとのこと。
筆者はいつもマニアックな観光地を巡っていますが、普段と決定的に違っていたのが、男一人はほとんど見かけず半分以上が若い女性でした。こんなことは今まで無かったぞー!

刀剣男子の後ろに恭しく供えられている2本の奉納刀。
2本とも普通の刀に見えますが、下の刀はなんと備前焼で作られているのです!
オリジナルは福岡一文字作の国宝「山鳥毛」、上杉謙信の愛刀して有名です。備前長船の刀を備前焼で陶器で作るって、岡山県が凝縮されている様です。
本物の「山鳥毛」は、数年前に瀬戸内市が5億円で購入し、約800年ぶりに里帰りしました。備前長船刀剣博物館で年1回の展示が行われ、運よく展示期間中でした。あとで見に行きます。
上の刀は拝殿前で打たれた神前打の太刀で、金属製です。
次は実際に日本刀が生まれる場所を見に行きます。

